LightCycler® 96 (Roche) を使用した.解析はLightCycler® 96 Software を用いて,ΔΔCt 法にて解析を行った.3. Liquid chromatography-mass spectrometry水溶性代謝物の分析は,東京医科歯科大学リサーチコアセンター内に常設されているLCMS-8060装置(Shimadzu)を用いて液体クロマトグラフィー質量分析法により行った.データ処理はLabSolutions LC-MSソフトウェアプログラム(Shimadzu)を用いて行った.結果及び考察LysoPIP3は細胞外の生理活性物質であるリゾ型のリン脂質は,生理活性脂質として,GPCRを活性化することが知られている.例えばリゾリン脂質の一つリゾホスファチジン酸は,6種類の受容体を介して多様な生理機能を発揮する5).新規リン脂質LysoPIP3にも細胞膜受容体が存在する可能性が考えられた.そこで,東京大学大学院薬学系研究科の青木淳賢教授との共同研究により,250種類のG protein-coupled receptor(GPCR)からLysoPIP3をリガンドとする受容体を TGFα shedding assay を用いて探索した.その結果,GPCR-YがLysoPIP3受容体として機能することを突き止めた.GPCR-Y は様々な疾患に対する関与が知られており,生体内に存在するXがその内因性のリガンドの一つとして報告されている.LysoPIP3 とXのGPCR-Yに対する活性について TGFα shedding assay を用いて詳細に検討したところ,LysoPIP3はXよりも,低濃度でより高い活性を示した.100 nMという低濃度のLysoPIP3でGPCR-Yが活性化されたことから,GPR39のより生理的な内因性リガンドは LysoPIP3 である可能性が考えられた.GPCR-Yは膵臓で発現が高い.興味深いことに,膵臓がん患者におけるGPR39の高発現グループは,低発現グループと比較して有意に生存率が低いことが分かっている.このことから,LysoPIP3 が GPCR-Y を介して,膵臓がんの悪性化に何らかの役割を果たしているのではないかと考え,以下の実験を行った.LysoPIP3は上皮間葉転換様変化を誘導するLysoPIP3の機能を詳細に解明するため,GPCR-Yの発現の高い膵臓がん細胞株PANC-1を用いて,細胞応答実験を行なった.興味深いことに,LysoPIP3 処理にしたPANC-1細胞では細胞間接着が緩まることに気づいた.そこで,細胞間接着分子について,RT-PCR を用いて解析したところ E-Cadherin の発現が減少していた (図2).E-Cadherin の発現低下は,上皮間葉転換(EMT)過程にある細胞の特徴の一つと考えられており,様々なヒトがん細胞株において,浸潤性と E-Cadherin 発現量との間に逆相関が観察されている 6).さらに,EMTを誘導する転写因子である,zinc finger E-box-binding homeobox 1 (ZEB1) の遺伝子発現が上昇していた (図2).ZEB1は,E-Cadherin の発現を抑制することが知られている7).このことから,LysoPIP3処理は,ZEB1の発現上昇を介した E-Cadherinの発現低下を引き起こし,EMTを誘導することが示唆された.― 170 ―
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