― 160 ―is a possibility that uterine endometrium of women with endometriosis and endometriosis-associated ovarian cancer exhibits aberrant expressions of genes that are associated with the functional characteristics of rhizome structure. We plan to compare expression levels of these genes in the three layers of the uterine endometrium between unaffected and affected women.はじめに近年,様々な正常組織において,がん関連遺伝子に体細胞変異を有する細胞クローンが加齢に伴って増加していることが明らかになってきた1).初期のドライバー変異は発がんの数年から数十年前に生じているという研究報告もある.正常細胞においてDNAが変化して腫瘍形成に至るプロセスを明らかにすることによって,発がん機序の解明やがんの予防・早期発見,治療法開発につながると期待される.Field cancerizationは半世紀以上前にSlaughterらによって提唱された概念であり,形態学的には正常だが,がん化に必要なゲノム・エピゲノム変化の一部を有する細胞集団によって組織がリモデリングされるプロセスが,発がんに先立って起こるというアイディアである2,3).がん近傍の一見正常な組織において,がんと同じゲノム変化が認められることから,口腔がん,肺がん,子宮頸がん,結腸がん,乳がん,膀胱がん,皮膚がんなどでfield cancerizationモデルの妥当性が実証されている.しかし,子宮内膜症関連卵巣がん(明細胞腺がん,類内膜腺がん)におけるfield cancerizationについて本質的な理解は進んでいない.卵巣明細胞腺がんや類内膜腺がんで生じている体細胞変異の一部が近傍の子宮内膜症病変に共通して認められることから,良性腫瘍である子宮内膜症を発症母地とした悪性化により発症すると考えられている4).子宮内膜症の発症起源については諸説あるが,⽉経血に含まれる子宮内膜組織が卵管を通って腹腔内に逆流し,腹膜や卵巣に生着・増殖することで発症に至る「⽉経血逆流説」が有力とされている.すなわち,子宮内膜症関連卵巣がんにおけるfield cancerization形成は,卵巣とは空間的に離れた別の組織である「子宮内膜」で起きている可能性がある.申請者は,一見正常な子宮内膜において,加齢に伴い,PIK3CAやKRAS等のがん関連遺伝子に体細胞変異を有する細胞が蓄積し,変異クローンが空間的に増殖するメカニズムを明らかにした5,6).がん関連遺伝子に体細胞変異を獲得した変異クローンが周囲の細胞に対して選択的優位性を持ち,子宮内膜の基底層付近に存在する網目状の上皮組織(地下茎構造)を介して空間的に増殖し,変異クローンによって組織が空間的にリモデリングされた状態になっていることが分かった.これらの知見から,変異クローンによってリモデリングされた子宮内膜組織の存在が,子宮内膜症や関連卵巣がんの発症リスク因子になり得ると考えられる.つまり,変異クローンによってリモデリングされた子宮内膜組織が,⽉経血逆流,子宮内膜症発症を介して,子宮内膜症関連卵巣がんに進展するというfield cancerizationモデルを提唱できる可能性がある.内膜症や関連卵巣がんの起源となるfield cancerizationが正常子宮内膜に形成されているかについて十分な検証はなされていない.また,変異クローンによる正常子宮内膜のリモデリングには,空間的な占有領域の広さ,複数の変異クローンによるモザイク状態等,表現型に多様性が存在する.子宮内膜症や子宮内膜症関連卵巣がんの罹患状態によって,変異クローンによる子宮内膜組織リモデリングの表現型に差異が認められる可能性があり,疾患発症リスクを予測するバイオマーカーになり得る.
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