― 154 ―はじめにリウマチ・膠原病疾患の病態は希少性や複雑性の観点から未知な点が多いが、自己免疫と炎症の両方の性質を有し、自己抗体や免疫複合体の産生に続く多彩な免疫細胞の活性化から全身性炎症が生じ、免疫介在性炎症性疾患とも呼称される.免疫細胞の過剰な活性化はサイトカインストームや血管内皮細胞障害を伴う重症病態である血管炎を誘導する.関節リウマチ・全身性エリテマトーデスなどの免疫介在性炎症性疾患は血管炎病態を合併し得、特発性の血管炎症候群と同様に、血管の閉塞や破綻による臓器障害を来たす難治性の経過を辿る.血管炎病態はリウマチ・膠原病のみならず、新型コロナウイルス感染症の難治性病態にも関連し、社会的な影響は甚大である.我々はこれまでに血管炎を対象とした末梢血の免疫細胞サブセット解析1)およびトランスクリプトーム解析2)を実施し、血管炎病態が多様であり、免疫系および代謝系が複雑に関与することを明らかにしてきたが、血管炎症を鋭敏に定量化するバイオマーカーが存在しないことが臨床的な課題である.血管炎病態に特異的なバイオマーカーを探索するためには、免疫介在性炎症性疾患横断的に網羅的解析を実施することによって、いくつかの疾患で共通する病態関連分子、あるいは、血管炎病態特異的に発現する疾患関連分子を明らかにするアプローチが有用である.膠原病領域における網羅的解析は⽶国でAccelerating Medicines Partnership (AMP)という大規模なプロジェクトが進行中である.関節リウマチ3)および全身性エリテマトーデス4)については⽶国が先行しているが、大型血管炎については検討されていない.本研究は血管炎疾患研究の基盤となることが期待され、さらに、血管炎症定量化のための特異的なバイオマーカーおよび血管炎病態の新規治療標的候補分子が同定されれば社会的にも大きく貢献すると考えられる.実験方法本研究では,免疫介在性炎症性疾患の分子特徴を疾患横断的に明らかにし,血管炎症定量化のための特異的なバイオマーカーおよび血管炎病態の新規治療標的分子を同定する.我々は,2015年以降,免疫介在性炎症性疾患の治療前から治療後,再燃までを追跡する⻑期の発端コホート研究(Inception Cohort Study)を開始し,2024年3⽉現在まで,約5,000検体の免疫介在性炎症性疾患ライブラリーを作成した.本研究は,疾患横断的な血清プロテオーム解析および空間トランスクリプトーム解析を組み合わせたトランスオミックス解析によって血管炎病態に特異的なバイオマーカーおよび治療標的候補分子をスクリーニングし,その有用性を検証するところまでを目的とする.1) 血清プロテオーム解析血管炎(n=85),その他の免疫介在性炎症性疾患(n=128)および健常者(n=21)から末梢血検体を採取した.Olink Proteomicsによって血清中の354蛋白を定量した.さらに,治療開始前,寛解期,再燃時にそれぞれ血清検体を採取し,標的とする蛋白濃度をELISAで測定する.2) 空間トランスクリプトーム解析得られた結果を巨細胞性動脈炎および多発血管炎性肉芽腫症の病変組織の免疫組織化学染色,および空間トランスクリプトーム解析により検証する.ホルマリン固定組織ブロックから必要な範囲の組
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