中外創薬 助成研究報告書2023
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図1.経内分泌癌における神経伝達物質の分泌機構がM2-TAMsの腫瘍浸潤を誘導し,抗腫瘍免疫応答を抑制していると仮説を立てた.さらに,免疫細胞に作用する神経伝達物質を特定するために,腫瘍からCD8陽性T細胞,制御性T細胞,M2-TAMsを抽出してRNAシークエンスで網羅的に解析したところ,M2-TAMsにおいてセロトニン輸送に関わる遺伝子群やセロトニン7受容体遺伝子HTR7が高発現していることが判明した(図2).さらに,神経内分泌癌においても,M2-TAMsの浸潤が多くCD8陽性T細胞の浸潤が少ない抑制性の免疫環境を有する腫瘍では,末梢のセロトニン合成に関わるTPH1が高発現していた.これらのことから,神経内分泌癌はセロトニンを産生・分泌することによりM2-TAMsを腫瘍局所へ誘導し,抑制性の腫瘍環境を構築していると考えられる.また,in vitroの実験系において,マウス骨髄細胞から誘導したM2-マクロファージにセロトニンを投与することにより,マクロファージの抑制性因子のRNA発現が上昇した.さらにそれらは選択的セロトニン7受容体阻害剤によりキャンセルされたことから,実際にセロトニンがセロトニン7受容体を介してマクロファージの免疫抑制作用を誘導する可能性が示された.これらの結果により,セロトニン7受容体阻害剤による治療がM2-TAMsを標的とした新たながん免疫療法となり得る可能性が示唆された.次に,神経内分泌癌がセロトニン合成・分泌を獲得する機序をより詳細に検証するために,大細胞神経内分泌癌の検体を用いて全エクソームシークエンスを行い,TPH1の発現と関連するがんの遺伝子異常を検索した.特に,神経内分泌細胞の分化に関わる遺伝子の異常に着目したところ,TPH1を高発現する腫瘍のみにDLL3のコピー数増加を認めた.さらに,RNAレベルにおいても,DLL3を高発現する腫瘍はTPH1を高発現していた.これらのことから,神経内分泌癌がTPH1を発現しセロトニンを産生・分泌する機序としてDLL3の増幅が考えられた.― 151 ―

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