中外創薬 助成研究報告書2023
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細胞機能評価を行う.凍結標本や固定した病理標本については,1) FFPEからの核酸抽出と全エクソームシークエンス・トランスクリプトーム解析,2) 空間的トランスクリプトーム解析もしくは多重免疫染色を用いた細胞の位置情報評価および組織環境の検討を行う.解析の対象として,小細胞肺がんと末梢血を同一症例でペア解析する.検体収集は,ICI治療などによる治療効果と紐づけられた症例を収集する.加えて,併設されている病院で保管されているがん免疫治療を実施された小細胞がん,NECのアーカイブ検体についても解析する.統合的オミックス解析を申請者が行い,がんゲノム異常や臓器特異的な環境による免疫応答の変化を網羅的に解析する.これまで確立してきたゲノム異常を軸とした変化に加えて,神経内分泌物質と免疫応答の関連などの観点からゲノム進化・免疫・代謝の3つの方向から腫瘍局所を統合的に解析する.これにより,小細胞がん,NECなどの神経内分泌関連腫瘍に特徴的なバイオマーカー・治療標的として候補となる因子を同定する.続いてin vivoでの検討ではin vitroの結果を踏まえてマウスの小細胞がん細胞株や,非小細胞がん株のRb1 を欠失させ小細胞がんへの形質転換を起こさせた細胞株を作成し,野生型マウスもしくは脳特異的細胞や免疫細胞に関するノックアウトマウスに移植し経過を追う.その後,各腫瘍よりDNA/RNAや代謝産物を抽出してin vitroと同様の比較検討を行う.また,腫瘍浸潤免疫細胞を抽出しフローサイトメトリーを用いて表現型を確認する.In vitroで得られた原因となり得る因子についての阻害剤や中和抗体の影響をin vivoでも検討する.解析の結果,フェノタイプ変化への寄与が疑われる遺伝子・シグナルについて強制発現株およびノックダウン株を用いてマウスモデルで検証する.また抗PD-1抗体を始めとした治療も実施し,発見した因子が抗PD-1抗体治療奏功に関わるか,免疫治療前後で免疫細胞の活性化が腫瘍遺伝子変異や発現の状態,免疫細胞浸潤の不均一性や免疫学的表現型に影響するかも評価する.ICIとの感受性が証明された候補因子については,バイオマーカー・治療標的として治験などの臨床試験へと展開する.結果及び考察我々は,大細胞神経内分泌癌の切除検体の多重免疫染色およびRNAシークエンス解析を行い,腫瘍局所へのCD8陽性T細胞の浸潤が少ない腫瘍では神経伝達物質の分泌に関わるSNAREsの遺伝子発現が高まっていることを見出した.さらにSNAREsの遺伝子発現が高い腫瘍の局所では,CD8陽性T細胞が少ないだけでなく免疫抑制性のM2-TAMsが多く浸潤していた(図1).これらのことから,神In vitroでの検討では神経内分泌物質などの代謝産物や液性因子が寄与する①がん細胞の遺伝子変化や②各種免疫細胞の活性化を解析する.①がん細胞株や②各種免疫細胞と代謝産物・液性因子を共培養するin vitroモデルを用いて,①がん細胞株の遺伝子発現の変化や②各種免疫細胞の活性化に変化を与えるかを検討する.通常培養した場合と代謝産物と共培養した場合とで比較し,がん細胞のDNA/RNAからエクソーム解析・コピーナンバー解析・トランスクリプトーム解析を行い遺伝子変異・コピーナンバー・免疫関連経路や代謝経路の遺伝子発現に違いがあるかを検討する.また各種免疫細胞に関しても同様に遺伝子発現やタンパク発現を検討しどのような違いが生まれるかを評価する.以上の解析で変化を認めるような場合には,トランスポーターやレセプターを始めとした遺伝子発現解析を参考にして因子を絞り込み,その因子に対する阻害剤や中和抗体による検討や,がん細胞に関しては遺伝子欠損株(場合によっては遺伝子強発現株)を作成し認められた変化がキャンセルされるかを検証する.― 150 ―

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