中外創薬 助成研究報告書2023
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図1. AS, ARの代表的な写真と,HE染色,CD68染色態であり,高齢化社会において,増加し続けている.そのメカニズムは,動脈硬化を基盤,大動脈弁が肥厚硬化するが,狭窄へと進行することにある.現在のところ,狭窄度が進行し,失神や心不全症状の出現があれば,外科的もしくは経カテーテル的大動脈弁置換術の適応になるが,有効な薬物治療は存在しない.メカニズムの探索や薬物療法の開発が遅れている理由の1つとして,マウスの大動脈弁狭窄症モデルが存在しない点が大きな制限になっていると考える.大動脈弁狭窄症に完全に近い形のモデルを作ることは今まで様々な研究室で検討が重ねられているが現時点では困難な点もあるので,できるだけ,ヒトのサンプルでメカニズムを解明する努力が必要である.申請者は冠動脈疾患において,慢性冠症候群患者(安定狭心症)と急性疾患群患者(不安定狭心症,心筋梗塞)の冠動脈粥腫切除術で切除したプラークをシングルセルRNAシークエンス比較解析を行い,マクロファージのsubclusterの違いを捉えることに成功している1).大動脈弁のシングルセル解析は既に一報論文が出ている2)が,繊維化石灰化を含んだ組織をシングルセル化することが非常に難しく,マクロファージは数%しか検出されておらず,その多様性についての評価ができなかった.その欠点を補って,免疫細胞にフォーカスを当てたシングルセル解析を行うことでマクロファージの多様性を捉え,治療標的を見出したい.大動脈弁石灰化の病態にマクロファージなどの免疫細胞が関与していることが報告されつつあるが,その詳細なメカニズムについては不明であるため,大動脈弁に存在する常在性マクロファージ,石灰化を誘導するようなマクロファージなどの存在を捉え,また平滑筋や弁の支持組織がどのように変化しているのかをシングルセルレベルで捉えることで,治療標的を見出したい.実験方法弁置換術の適応となった,ヒト大動脈弁狭窄症患者(AS)の大動脈弁9例とコントロールとして大動脈弁閉鎖不全症(AR)の大動脈弁4例を組織学的に比較,その後シングルセルRNAシークエンス比較解析を行った.結果及び考察ASとARの代表的な写真を見るとその厚さや層構造に大きな違いが見られ,組織学的な解析においては,ASにおいて石灰化の周囲にはCD68陽性のマクロファージの集積を認めた.一方,ARの大動脈弁サンプルでは,CD68陽性のマクロファージがまばらに認められ,その分布に大きな違いが認められた(図1).― 144 ―

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