― 137 ―membrane and calcium ion channel activity.はじめに繊毛は,細胞表面に発達する微小管性の突起構造であり,自律的な運動性をもつ「動繊毛」と多様なチャネルや受容体が集積する非運動性の「一次繊毛」に大別される.通常,発生初期に一過的に形成されるノードにおいて,ピット細胞の運動性繊毛が作り出す反時計回りの水流が遺伝子発現の左右非対称性を誘導する.この時,ノードの左側周縁部のクラウン細胞に発達する一次繊毛に局在する機械受容性Ca2+チャネル・Polycystin-2がノード流を感知して,繊毛から流入する Ca2+が遺伝子発現を制御する.一次繊毛が細胞力覚能を発揮するために,一次繊毛を覆う細胞膜(繊毛膜)には,コレステロールが高度に濃縮しており,巨大な細胞膜ドメインを形成する.コレステロール合成阻害剤・Statinを処理した実験動物では,内臓逆位など先天奇形が生じるが,コレステロール量の低下が内臓逆位を引き起こす機構は不明である.クライオ電子顕微鏡による先行解析から,Polycystin-2にはコレステロールが配位することが報告された1).重要なことに,常染色体優性多発性嚢胞腎の患者データベースには,Polycystin-2のコレステロール配位を担うアミノ酸のミスセンス変異(PKD2 L517R)が検出される.これらの知見をもとに,我々は,PKD2 L517R(マウスではL515R)変異ノックインマウスを作製したところ,半数のホモ個体で内臓逆位を示した(図1).本研究では,繊毛膜上に形成されるコレステロール・Polycystin-2クラスターの「構造―活性」相関を評価して,コレステロール欠乏による内臓逆位の分子機構の解明を研究目的とした.図1. コレステロール結合部位変異Polycystin-2マウスの心臓逆位(RV:右室,LV:左室)実験方法本研究では,コレステロールが,a) Polycystin-2のCa2+イオンチャネル活性を「直接的」に制御するのか?,b) 繊毛への局在または繊毛内でのクラスター化を介して「間接的」にCa2+イオンチャネル活性を制御するのか?を明らかにすることで,コレステロールの「臓器配置の左右非対称性の獲得機能」を分子・細胞レベルで評価した.
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