の活性化を促進することは肺をはじめとした各種臓器の線維化の原因となる.このように上皮間葉転換が疾患と関連することから,上皮間葉転換の制御機構は多くの研究者の関心を集めており,活発に研究が進められ様々な重要な知見が得られてきた.しかしながらこれまで明らかにされてきた上皮間葉転換の制御機構のうち,細胞膜リン脂質の役割に関する知見は多くなく,上皮間葉転換制御における細胞膜リン脂質の役割については不明点が多く残されている.申請者は,細胞膜構成リン脂質イノシトールリン脂質の一種であるホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PI(4,5)P2)を分解する酵素ホスホリパーゼC(PLC)の生理機能に焦点を当て,これまで研究を行ってきており1-4),その研究を進める過程で,PLCの基質であるPI(4,5)P2が上皮細胞には豊富に存在しているという結果を得た.そのため,PI(4,5)P2の上皮細胞における役割に着目した解析を行ったところ,上皮細胞においてPI(4,5)P2の量が減少することが上皮間葉転換に関与することを示唆する結果や,間葉細胞でPI(4,5)P2の量を増加させると,細胞間接着をはじめとした上皮細胞の特徴的な性質が獲得されることを示す結果を得てきた.これらの結果は,PI(4,5)P2が上皮間葉転換を制御する重要な要素であることを示唆するものと考えられる5).そこで,本研究では,PI(4,5)P2が上皮細胞特性を制御するメカニズムを解明し,PI(4,5)P2やその関連シグナルを標的とした上皮間葉転換阻害の可能性を探る.これにより,浸潤癌や臓器線維症などの上皮間葉転換が関連する疾患に対する新たな治療戦略の開発に向けた基盤的な知見を得ることを目指す.実験方法PI(4,5)P2近傍タンパク質の探索PI(4,5)P2に特異的に結合するPLCδ1のプレクストリン相同 (PH)ドメインにV5タグと大豆由来の改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ (APEX2)を融合させた遺伝子を,ヒト表皮角化細胞株HaCaT細胞に安定発現させた.この際に,コントロールとして,アミノ酸点変異によりPI(4,5)P2への結合能を失ったPLCδ1のPHドメイン変異体にV5タグとAPEX2を融合させた遺伝子を安定発現するHaCaT細胞も作成した.続いて,V5タグとAPEX2が融合したPLCδ1のPHドメインが,通常のPLCδ1のPHドメインと同様の細胞内局在を示すことをV5タグに対する抗体を用いた免疫蛍光染色により確認した.その後,作成した細胞を過酸化水素とビオチンフェノールで処理することで,APEX2に近接するタンパク質,つまり,PLCδ1のPHドメインとPI(4,5)P2に近接するタンパク質をビオチン化した.ビオチン化されたタンパク質はストレプトアビジンビーズにより精製し,アミノ酸による安定同位体標識法と組み合わせた定量的プロテオミクスによりPI(4,5)P2に近傍するタンパク質を同定した.形質膜局在型PI(4,5)P2分解酵素や形質膜局在型PARD3の発現細胞の作成Lynチロシンキナーゼ由来のミリストイル化モチーフをGFPと融合したヒトINPP5Eの触媒ドメインのN末端に付加した遺伝子,または,V5タグと融合したヒトPARD3のexocystドッキング領域のN末端に付加した遺伝子をpMXs-IPベクターに導入し,レトロウイルス作成用プラスミドを作成した.その後,プラスミドをパッケージング細胞 (Plat-A)に導入し作成したレトロウイルスをヒト表皮角化細胞株HaCaT細胞に感染させ,ピューロマイシン存在下で培養することで,目的遺伝子を安定発現する細胞を得た.― 133 ―
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