中外創薬 助成研究報告書2023
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部分で雌マウスや別系統のマウス(CB6F1並びにBALB/c)においても同様に認められることもプロテオミクス解析により確認している.加齢に伴い発現が変化するタンパク質の種類は組織によって大部分異なってはいたものの,一部大半の組織で共通して増加が認められるタンパク質も存在していた.その中には,アミロイドの形成を通じECMの蓄積を促進しうるAPOEやECMの蓄積を引き起こさせる事が知られる細胞外プロテアーゼHTRA1が含まれており,したがって加齢に伴うECMタンパク質の増加にはECMタンパク質のインタラクトームに起因するタンパク質のターンオーバーの変化などによるタンパク質レベルの調節異常が関与している可能性が考えられる.本研究を通じて得られたプロテオーム情報とトランスクリプトーム情報を照らし合わせた結果,同じ組織粉末から解析した場合であってもやはりタンパク質レベルとmRNAレベルの加齢変化に相当の乖離がある事が確認された.そこで,タンパク質レベルでのみ有意に変化し,mRNAレベルの有意な変化を伴わない遺伝子と,双方で有意な変化を示す遺伝子にどのような違いがあるのかを調べたところ,腎臓のLSFを除く全てのデータセットにおいて,前者(タンパク質レベルでのみ変化する遺伝子)の中にECM遺伝子が濃縮している事が明らかとなった(Fig.1g).逆に,タンパク質レベルでのみ減少する遺伝子の中にはミトコンドリア膜タンパク質が濃縮されており,一方でミトコンドリア膜間腔や内腔の遺伝子はこのような特徴を示さなかった(Fig.1g).また,加齢変化を示す遺伝子のうちタンパク質レベルでのみ加齢変化を示す遺伝子が占める割合は24ヶ⽉齢よりも30ヶ⽉齢で高くなる傾向があり(Fig.1h),加齢に伴う転写後調節異常が生涯のかなりの後期において顕著になるものである事が示された.おわりにこれまで行われてきたマウスプロテオームの加齢変化の研究は,単独の組織に着目したものや,高齢とは言え比較的⽉齢の小さいものであった.本研究では,多数の組織について,30ヶ⽉齢というかなりの高齢マウスを解析に含め,さらに結果的に加齢による影響を受けやすいことが判明したLSFの解析を追加した事で,加齢変化をこれまでより包括的に評価することに成功した.その結果,ECMタンパク質の増加が老化プロテオームの主要な特徴であるなど,これまで知られてなかった老化の側面を明らかにすることができた.本研究を通じて築いたマウスの老化プロテオームの情報基盤はMouse Aging Proteomic Atlasとして近⽇中にWEB上で公開される予定である.謝 辞本研究は,公益財団法人 中外創薬科学財団による助成(研究助成金II)を受けて行われました.中外創薬科学財団並びにご関係の皆様方に深く御礼申し上げます.― 129 ―

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