図4. 睡眠表現型の変化― 121 ―I Tobler, A A Borbély: Sleep EEG in the rat as a function of prior waking. Electroencephalogr Clin Neurophysiol, 64, 74–76 (1986).2. M Steriade, I Timofeev, F Grenier: Natural waking and sleep states: a view from inside neocortical neurons. J Neurophysiol, 85, 1969–1985 (2001).3. M Rudolph, M Pospischil, I Timofeev, A Destexhe: Inhibition determines membrane potential dynamics and 結果及び考察EINモデルにおいてシナプス強度を増加させると,脱分極 (up state) が不安定化し,down stateが誘導されることが明らかになった.これは数学的にHofp分岐と呼ばれ,シナプス強度の変化とup-down stateの関連が初めて提唱された(図3).続いて,薬剤依存的にシナプス増強を引き起こすSYNCit-Kを用いて,Prefrontal Cortex (PFC) の興奮性神経細胞におけるシナプス増強が,マウスにおいてデルタ波およびNREM睡眠の時間の増加を誘導することを見出した(図4).これらの結果は,シナプス強度とdown state,およびデルタ波の間に因果関係を示した最初の報告である.おわりに睡眠圧の生物学的な実体は⻑らく不明であった.近年,分子レベルから細胞集団レベルに至る階層の異なる睡眠圧の実体が報告されている.本研究は最も大きなギャップとなっていた,細胞レベルのシナプス強度と神経レベルおよび神経集団レベルの睡眠圧を結びつけた最初の報告である.同時に,PFCにおけるシナプス強度が睡眠圧をエンコードしている可能性が強く示唆されており,今後の睡眠研究における一つのトレンドとなることが期待される.謝 辞SYNCit-Kの開発と提供に関して,東京大学の河西先生,澤田先生を始めとする河西研究室の皆様に感謝申し上げます.また,数理モデルの開発においては,理化学研究所の豊泉先生,吉田先生に感謝申し上げます.⽇頃お世話になっている筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の先生方にも厚く感謝申し上げます.最後に,史研究室内で本プロジェクトに大きく貢献した飯野先生,野村先生,清水先生,十一先生に感謝申し上げます.引用文献1.
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