ていなかったが,我々は最近,両者細胞群を区分する分子マーカーとしてBcl2,IL-7R,Sca1の3分子を同定した6).すなわち,古典的メモリー細胞がBcl2hi IL-7Rhi Sca1hiであるのに対し,MP細胞はBcl2lo IL-7Rlo-hi Sca1lo-hiの表現型を呈する.我々は,MP細胞自体がIL-7R,Sca1の発現量によって4分画(IL-7Rhi Sca1lo,IL-7Rhi Sca1hi,IL-7Rlo Sca1hi,IL-7Rlo Sca1lo)に分類されることを明らかにした.これら4分画は,通常の実験室環境であるSPF環境のみならず,germ-free (GF)環境やforeign antigen-free (AF)環境でも同様に認められたことから,自己抗原認識依存的に産生される分画を示しているものと考えられる.我々はさらに,ナイーブ細胞から産生されたばかりのMP細胞はIL-7Rlo Sca1hiまたはIL-7Rlo Sca1loの表現型をとり盛んに細胞増殖するのに対し,時間経過とともに成熟したMP細胞は徐々にIL-7Rhi Sca1hiの表現型を獲得することを見出した.さらに,こうした成熟MP細胞は転写因子T-betを発現する「MP1」を多く含み,サイトカインIL-12,IL-18,IL-2に応答し,TCR刺激非存在下においてもIFN-γを産生しうることが証明された.以上より,MP細胞が古典的メモリー細胞とは異なる存在であること,MP細胞のうちIL-7Rhi Sca1hi分画が成熟MP1に相当することが明らかになった.現在,その他の分画とMP2,MP17との関連性などにつき検討中である.(Ⅱ)MP細胞の免疫学的機能上述のように,MP細胞の自然免疫機能の主軸はIL-7Rhi Sca1hi成熟MP1分画によって担われることが判明した.免疫不全マウスにMP1細胞を移入したうえで同マウスをToxoplasma gondii感染に供し,さらにIL-12を連⽇投与したところ,MP1による延命効果が劇的に改善することも明らかになった.すなわち,「免疫賦活化治療」におけるIL-7Rhi Sca1hi MP1細胞の治療標的としての有用性が示唆された.一方,MP1細胞をRag2 KOマウスに移入し⻑期自然経過を観察したところ,腸炎のみならず肺炎や腎炎などの全身炎症が惹起されることを示唆する所見を得た.本炎症反応はIL-12に依存的であった.これらの結果は,MP1細胞の過剰活性化が自己免疫疾患を惹起するとの仮説を支持するものであると考えられ,現在,同反応の詳細な分子メカニズムを解析中である.おわりに上記の一連の研究により,MP細胞のheterogeneity,MP1分画の定常的分化機構,自然免疫的感染防御機能,炎症惹起能の一端が明らかになった.このことから,MP2/17サブセットに関しても同様にそれぞれ固有の分化機構や免疫学的機能の存在が示唆され,鋭意研究中である.今後,MP1/2/17分画の産生維持・分化機構や機能の全容が明らかになれば,同細胞を人為的に活性化することにより,病原体の特異性によらず幅広い感染症に対応する新規「免疫賦活化治療」の創出にも資するものと期待され,実際に我々は同治療法のコンセプトを発表した7,8).一方で我々は,本研究において,MP細胞が全身性の炎症を惹起しうることを示唆する所見を得た(投稿中).今後,MP細胞による全身性炎症惹起メカニズムを分子レベルで明らかにすることにより,「免疫賦活化治療」に伴いうる炎症副作用の軽減にも資するものと期待される.― 116 ―
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