中外創薬 助成研究報告書2023
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― 115 ―overactivation to avoid immunopathology.はじめにCD4+ T細胞は,外来抗原特異的獲得免疫応答に必須のリンパ球である.すなわち病原体感染時,外来抗原に特異的なT細胞受容体(T cell receptor: TCR)を有するナイーブ細胞は活性化・増殖しエフェクター細胞へと分化し,病原体を生体内から排除する.感染終結後,大半のエフェクター細胞は死滅するが,一部の細胞はメモリー細胞として⻑期に生存し,生涯免疫記憶を形成する.これらの細胞集団からなるT細胞免疫系は,精密な制御機構により,その恒常性が生涯にわたり維持される1).申請者は最近,CD4+ T細胞中の一分画として,外来抗原ではなく自己抗原特異的に産生され恒常的に準活性化状態を呈する新規細胞集団「Memory-phenotype (MP)細胞」を同定した2).MP細胞は,獲得免疫の中枢を担うはずのT細胞にあって自然免疫機能を有するという極めて特徴的な性質を保持し,現在免疫学界において注目を集めている3,4).MP細胞は,抗原認識非依存性かつサイトカイン反応性にエフェクターサイトカインを産生しうることから,本来は自然リンパ球(innate lymphoid cell: ILC)と類似の機序で自然免疫的感染防御に寄与するものと考えられる.実際に我々は,自然リンパ球におけるILC1/2/3分類と同様に,MP細胞がMP1/2/17サブセットに分類され得るとの知見を得ている5).このことから,MP1/2/17サブセットがそれぞれ固有の分化機構や感染防御機能を有する可能性が示唆される.一方,MP細胞の持つ自己抗原反応性より,その過剰活性化により自己免疫・炎症性疾患が惹起される可能性も類推される.上記の研究背景を踏まえ,本研究ではMP細胞の生物学的特性や分化・活性化機構を解明し,さらには同細胞による自然免疫的感染防御機能や自己免疫疾患発症機構を究明することを目的とした.実験方法マウスは,C57BL/6野生型および各種遺伝子改変マウスをspecific pathogen-free (SPF)環境下で飼育したものを用いた.MP細胞の解析のために,野生型や各種遺伝子改変マウスを用いたSingle cell RNAseq (scRNAseq)ならびにフローサイトメトリー解析を行った.動物実験は,「動物の愛護及び管理に関する法律」および「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」を厳正に遵守し,「東北大学における動物実験に関する指針」に則り科学的かつ人道的に適切な方法で行った.実験計画は,東北大学環境安全委員会動物実験専門委員会の承認のもとに行った.また,遺伝子組換え実験(第二種使用等)は「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書」,「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」を遵守し,「東北大学遺伝子組換え実験安全管理規定」に則り科学的かつ倫理的に適切な方法で行った.実験計画は,東北大学環境安全委員会遺伝子組換え実験安全専門委員会の承認のもとに行った.結果及び考察(Ⅰ)MP細胞の生物学的特性,分化・活性化機構MP細胞は自己抗原認識依存的に産生され,病原体感染時には自然免疫機能を発揮する.このことから同細胞は,外来抗原特異的に活性化し獲得免疫を担う抗原特異的すなわち古典的メモリーT細胞とは質的に異なる存在であるものと考えられる.両者を鑑別する分子マーカーはこれまで同定され

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