生命活動の基盤を成す.私はこれまでその能動輸送機構の解明を目指して,様々な中間体の立体構造を明らかにしてきた1-4).その結果,イオン選択性やゲート開閉などの大部分を原子レベルで理解できるようになった. 図1. Na+ポンプの反応サイクル一方で,Na+ポンプの異常は様々な疾患との関連が指摘されているものの,その仕組みの構造的理解は進んでいない.神経細胞におけるNa+ポンプはα-シヌクレインやアミロイドβ凝集体の標的蛋白質で,アルツハイマー病などの神経変性疾患に関わることが知られている5).こうした凝集体はNa+ポンプに結合し,ポンプ活性を阻害することが報告されているが,その結合領域は反応サイクルを通じて構造変化しないため,その阻害機構はよく分からない.唯一考えられるのは,Na+ポンプが反応サイクル中で機能発現のためには脂質二重膜に対する傾きを変える可能性があり,アミロイド凝集体はそれを阻害するのかもしれない(図2).こうした分子の傾きの変化と機能発現の相関は同じP型ATPaseであるCa2+ポンプにて報告されている6).そこで,本研究では脂質二重膜に対するNa+ポンプの傾きの変化の重要性,すなわちNa+ポンプは機能発現のためにどのように脂質二重膜を利用しているのか,を構造的に明らかにすることとした.図2. Na+ポンプにおけるα-シヌクレイン(α-syn)やアミロイドβ凝集体(ASPD)の結合領域(左)と推定される阻害機構(右)α-synやASPDはNa+ポンプの細胞外ループ領域L8/9に結合することが示唆されるが,L8/9は反応サイクルを通じて構造変化しない. 燐酸化反応で細胞質Na+を細胞外へ,脱燐酸化反応で細胞外K+を細胞内へ輸送する. ― 109 ―
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