図1. iChipのデザイン― 104 ―はじめに薬剤耐性菌の拡大により,新しい抗生物質の開発が喫緊の課題となっている.従来の抗生物質探索研究では,放線菌や糸状菌などの特定の微生物が探索源として用いられてきたが,近年ではこれらから新しい抗生物質を発見することが難しくなっている.これを背景に今⽇の抗生物質探索研究では,その探索源をこれまで未開拓の微生物資源に求める動きが活発になりつつある.2010 年に⽶国の研究グループによって iChip(環境中で微生物を純粋培養することができる装置)が開発されると,従来の研究室条件では培養できなかった微生物(難培養性微生物)を研究対象とすることが可能となった(図1)1).実際に 2015 年には,iChip を抗生物質探索研究に応用することで,難培養性細菌 Eleftheria terrae から新しい抗生物質テイクソバクチンが発見された2).また 2020 年には,iChip から単離された細菌から,抗結核菌活性を示す 3つの抗生物質,ストレプトマイコバクチン,キタマイコバクチンおよびアミコバクチンが次々と発見されている3).このことから難培養性微生物が新しい抗生物質の有力な探索源となることが見えてきた.これを背景に本研究では,将来的な抗生物質探索研究への導入を目的とし,iChip を活用した難培養性微生物ライブラリーの構築を目指した.島国である⽇本は,大陸に属する国とは異なる環境微生物叢を有していると期待される.また近年の抗生物質探索研究では,ヒト腸内細菌叢への影響から,抗菌スペクトルの狭い化合物の発見が求められている.そこで本研究では,iChip から分離された微生物から培養物を調製し,これを複数の病原菌を対象としたスクリーニング(ディファレンシャルスクリーニング)に供することで,特定の病原菌にのみ活性を示す選択性の高い抗生物質の発見を試みた.実験方法① iChip からの微生物の分離⻑野県内から採取した⼟壌サンプルを滅菌水中に懸濁し,懸濁液中の微生物数を計測した.計算上 iChip のウェル 1 つあたりに 1-5 細胞が分配される密度となるように⼟壌サンプル懸濁液を SMS,
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