さらに,酵素の反応性を酸化反応からイオン化物の導入反応へと機能改変すべく,活性部位に変異を導入した.ハロゲン化を触媒するαKG依存性ハロゲナーゼの活性部位の鉄イオン配位様式を参考にし,TlxJの鉄イオン配位に関わる保存されたアスパラギン酸(D138)をアラニンまたはグリシンに置換し,イオン化物を受け入れられるように調整した(図4).TlxJ_D138G-TlxIおよびTlxJ_D138A-TlxI変異体に対して,異なるイオン化物(Cl-,Br-,I-,F-,N3-,OCN-,CN-,SCN-,NO2-)を含む溶液条件において,1-5と共に酵素反応を行った.その結果,TlxJ_D138G-TlxI に対して1と-を用いた反応条件において1のアジド化反応が進行し,12を与えることを見出した(図5).また,N3変異体は3に対して水酸化反応の選択性が変化し,3の7位の水酸化体13を主生成物として与えることが判明した(図5).4に対するTlxI-J WTとTlxJ_D138G-TlxIの水酸化選択性を理解するために,分子ドッキングを行った結果,TlxI-J WTでは8β位水素原子と鉄中心の間の距離が4.1Åであるのに対し,TlxJ_D138G-TlxIでは活性部位内において3の結合様式が大きく変化し,7α位水素原子と鉄中心の間の距離が最も近づくことが示唆された(図4).また,TlxJ_D138G-TlxI の3とOCN-との酵素反応生成物を精査した結果,3に対してm/z +73 Daの微量ピークを生成していることが判明した.そこで,本化合物の生成量を向上させるため,TlxJ_D138G-TlxIを出発点として進化工学の手法により活性の増強を試みた.まず,error prone PCRによる変異導入と,活性部位入口において蓋のような役割を担うループ上のアミノ酸残基に対して部位飽和変異導入を行った.粗酵素を用いた反応の結果,ループ上のアミノ酸残基71, 72, 74に変異が導入された変異体(TlxI-J Mut1)において,TlxJ_D138G-TlxIより多くの基質が消費され,活性が3倍まで増強されたことを確認した.本変異体を用いて生成物の構造決定を行った結果,6位にNCOが導入され,環化された14であると構造決定した(図5).― 99 ―図4. 野生型酵素におけるステロイド,ポリケタイド化合物との反応図5. 変異体による生成物の構造
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