13令和5年(2023年)度第13回 「JCA-永山賞」受賞記念講演令和5年(2023年)11月27日 於 東京ステーションホテル【山本先生ご講演要旨】 このたびはJCA(Japanese Cancer Association)-永山賞を賜りました。 JCA-永山賞の存在は知り得ておりましたが、これまでに受賞された諸先輩方の実績からして、縁遠い存在と認識しておりました。今回、「NCCオンコパネルの医療実装によるがんゲノム医療の始動」に対して栄誉ある同賞をいただくこととなり、中外創薬科学財団、日本癌学会にNCCオンコパネルの医療実装に関わったメンバーを代表して御礼申し上げます。 NCCオンコパネルの開発は2012年頃にさかのぼります。 当時の薬剤開発は、バスケット試験、アンブレラ試験などに代表されるがん腫横断的かつ特定の遺伝子異常に対する薬剤開発が主流となり、遺伝子プロファイリング体制なしには、最前線から脱落する危機に■していました。 折しも国立がん研究センター研究所では、2012年より中■斉研究所長(当時)の提案によりNCCオンコパネル・プロトタイプの開発が始まっていました。 国内で臨床レベルの遺伝子解析(クリニカルシークエンス)ができる体制を作りたい,日本人ゲノムデータを国内に保持できるシステムを作りたい,がん治療薬にアクセスする道筋を公的にサポートしたい,など、がん治療・薬剤開発との連動が視野に入っていました。 2023年、国立がん研究センター中央病院で、自身が代表となるクリニカルシークエンス臨床研究(TOP-GEAR project, UMIN000011141)を開始し、その中でNCCオンコパネルの実施可能性を評価しました。 初期段階において、少ないながらも遺伝子プロファイリングを行うことにより、第I相試験において、従来(奏効率5%程度)よりも優れた治療効果(奏効率33%)が得られる可能性が示唆されましたが、品質保証下の解析の実動や薬事承認・保険収載への道筋など、様々な問題が発覚、実装に向けていくつもの課題を突きつけられました。 この状況下で、当時、国立がん研究センター研究所・副所長・基盤的臨床開発研究コアセンター長であった落合淳志先生の発案により、協働してくれたのが、シスメックス/理研ジェネシスの方々です。 NCCオンコパネルをコンビネーション医療機器として開発する方向が決まり、さらに、臨床実装に向けて中央病院品質保証ラボ(SCI-Lab)を開設、臨床実装を見据えたクリニカルシークエンス体制を稼働しました。 TOP-GEAR project第II期(phase II)においては、187例において、1つ以上の遺伝子変異の検出83.4%、アクショナブルな遺伝子変異の検出59.4%と十分な有用性を確認するとともに、13.4%の症例において、遺伝子変異にマッチした治療薬の投薬に至りました。 この数値(13.4%)は現在のゲノム医療のベンチマークになっています。 さらに全国レベルでの稼働性・有用性の検証のため、2018年にNCCオンコパネル検査の先進医療を実施し、全国50の医療機関から335例の登録を得て、検体不良をはじめとする評価不能例を除いた解析対象315例全例においてNCCオンコパネルにおける解析が確認されるとともに、51.4%においてアクショナブルな遺伝子変異の検出に至りました。 NCCオンコパネルは2018年に国内初の遺伝子パネル検査として薬事承認され、2019年に保険適用されました。 現在、他のがん遺伝子パネルとともに、包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査の主軸を担うとともに、日本のがんゲノム医療に多大な貢献を果たしています。 今回、JCA-永山賞の栄誉にあずかりました中央病院の田村研治*、角南久仁子、中島哲*、山本昇、研究所の落合淳志*、河野隆志、市川仁、加藤護、シスメックス社の渡辺玲子、理研ジェネシス社の鷲尾尊規からなる研究グループ(*当時)は、医師、検査技師、基礎研究者、企業研究者からなるドリームチームであり、さらに多くの関係者の理解・協力があって、この「NCCオンコパネルの医療実装」にたどり着くことができました。 この経験を次なる大きな課題に活かしたいと考えております。 最後に日本癌学会・佐谷秀行理事長、中外創薬科学財団 永山治理事はじめ財団の皆様、評議員、選考委員の皆様に厚くお礼申しあげます。 また今後もさらに研究の発展に向けてご指導、ご■撻を賜ります様お願い申し上げます。
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