東京生化学研究会 60周年記念誌
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(公財)東京生化学研究会60周年に寄せて 本研究会60周年並びにCHAAO10周年に当たり、わが国のがん研究と医療に大きく貢献されてこられた主催者と関係諸氏に敬意を表します。 現代社会は、ITの進歩で急速に変貌しつつあります。 医療分野でも革新的な医薬品、治療技術、医療機器などの開発が進みつつありますが、その反面、国民の高齢化の進展、多様化する疾病と治療体制、保険財政の逼迫、医療従事者不足など数多くの課題が残されています。 このように進歩した医薬品を含めた医療技術も、この度の全世界に伝播した新型コロナウィルスの衝撃的なパンデミックには通用しませんでした。 人類史上最悪な医療危機を引き起こし、人々の生活は混乱し、現代社会に大きな傷痕を残しました。 14世紀に発生したペストの大流行で欧州人口の1/3が死亡したとされていますが、あの黒死病の恐怖を目の当たりにした感があります。 たかが感染症ごときにこれほどの大きな社会崩壊が生じてしまう現在の医療を含めた社会機構を今見直さなければなりません。 世界の医療は目先の死亡率の高い循環器疾患や悪性腫瘍などを標的として革新的医薬品、診断治療に亘る医療技術の開発に多大な予算を費やし、それなりの成果を示してきましたが、この苦い経験から広視野に基づく医療体制の構築を考える必要があります。 人類は自然の脅威を乗り越えることはできないでしょうが、いかに共生するかを考えなければなりません。 抜本的な感染予防対策、ワクチン開発と備蓄、治療薬の開発、個人開業医や病院機構の再構築、日常生活や通勤通学に至る社会活動、経済機構などの新しい社会機構などの変革が必要になります。 より正確な医療の実現のためには、包括的な詳細な病態解析が創薬を含め、高精度、安全、そして安価な新しい医療の展開が可能になります。 今後ともこの法人が、その使命を貫かれ、大きく世界に貢献されるものと信じております。加藤 治文(財団現評議員)東京医科大学名誉教授075東京生化学研究会60周年に寄せて

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